Takahashi-Studio

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09.06.17
北嶺町の家 見学会

建築家室伏次郎さん設計の自邸である「北嶺町の家」を訪ねました。自前に室伏さんの作品や、建築に対する考え方に触れた上でこの住宅を見学させて頂きました。1970 年に竣工したこの住宅は室伏さんの近親者と共同で作られたもので、当時極端な資金不足と狭小な敷地条件の下に狭小の共同住宅として計画されたものです。そ の後、近親者の方が引っ越されてからは室伏さん御一家でこの家に住まわれ、生活の変化に応じて数回の改築を行って現在に至っています。鉄筋コンクリート造 壁構造4階建で、内法4m×9m、階高2.4mの打放しコンクリートの壁の空間、その両側に1.3mと75cmの2種類の奥行で5mのガラスの箱のような スペースが取り付いていて、1階、2階、3階の3カ所にそれぞれ出入口があるトリプルアクセスの構成をとっています。30年以上経つ現在も空間の骨格は変 わらないままに、多様な生活の変化と、設えの変化に対応してきた住宅です。1階、3階、4階、屋上を見学させ て頂いた後に、室伏さんからこの住宅を建てるに至った経緯、実際の生活、住宅に対する考え方などについて簡単なレクチャーがありました。室伏さんのお話の中で、「機能の解決を考えずに、出来る限り決めないことによって建築を成立させる考え方があってもよい」というお話がありました。つまり決めてない部分が出来ていることで空間はフレキシブルになり、そこに住まう人が工夫して住むことで、生活が刺激に満ちたものになるということです。北嶺町の 家はそのような考えのもとに構想されたもので、後の生活の変化にも十分対応しているようでした。必要最小限の機能でできたこの家は私が想像していた以上に 快適で、居心地の良いものでした。洞窟をうまいこと住みこなすような感覚でこの家を自分達の生活の変化に合わせてカスタマイズし、生活の利便性を高めてい く。北嶺町の家には機能主義に満ちた住宅にはない自由さがあり、人間が本来送るべき生活の姿を垣間見ることが出来ました。この見学会を通じて、機能主義の利便性が必ずしも人々の生活を豊かにするものではないということを感じ、これからの住宅建築の在り方を考えるきっかけになった気がします。 Written by  Naoki Iguch

実際の室伏さんの建築を訪れる前に文書を読んだだけでは自分の建築的な経験の不足でなかなか理解の難しいところがあり、様々な疑問を抱きました。しかし実際に北嶺町の家を訪れ見学させていただき、内部を巡るうちにそれまでの疑問は納得に変わっていきました。室伏さんの遺構的な開口の考えや、建築と人 間との自立的な関係。それらは実際の体験、開口からの幻想的な光、それにより感覚を刺激する室内の様相、奥様のこどもたちの話をきいているうちに言葉は身体で感じるものへと変わりました。建築のおもしろいところは「なぜこうなったのだろう?」といった不思議、疑問を抱かせ、それを建築を体感し様々な発見に よって納得する。そういったものではないのか。ということが今回の見学会で学んだことでした。 Written by  Yasuharu Kanzaki

敷地面積71� に建つ建築面積49� のこの住宅は、竣工時と現在で名称が異なっている。「上の家・下の家」という名称だった頃そこは、上半分と下半分に2家族が住む共同住宅であった。それからおよそ40年の間に様々な住人の変化に合わせてこの住宅も変化してきた。建築に合わせた生活ではなく、建築から自律した生活を送るための「決めない」という考えのもとにうまれた「どのような使われ方の変化にも自在に対応できる原型としてのプラン」がまさにそこで実証されていた。建築家の自邸を訪れると、その建築家の性格をみてとれるように思う。この住宅も、何事にも動じず臨機応変に対応することができるプランと、それを包みこむ普遍の壁が室伏さ んの懐の広さと芯の強さを物語っているように感じた。また、その空間に暮らす家族は、変わらぬ安心感のなかで伸び伸びと暮らしているのだろうと想像でき た。確かにこの住宅での出来事を語る奥さんの表情には、いかにその空間を楽しんでいるかが現れていた。今回の見学では学生時代の室伏さんの設計に対する思いから設計理念までとてもフランクに語っていただき、学生側も肩の力を抜いて聞き入っていたようでした。室伏さんの建築観に共感するとともに、経験に裏付けされた言葉の確かさに憧憬しました。建築家の自邸で本人に解説していただくという貴重な機会を得ることが出来たことをうれしく思います。 Written by Shuntaro Nishizawa