Takahashi-Studio

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09.06.06
盈進学園東野高等学校 見学会

パタン・ランゲージと盈進学園東野高等学校/橋本ゼミ  クリストファー・アレギザンダーのパタン・ランゲージの実践だと言われる盈進学園東野高等学校を見学した。その後みんなでカフェに移動し、ディスカッションを行う。今回のゼミは、編集者の橋本純さんが提案してくださったもので、立花スタジオの修士、高橋スタジオの修士と学部4年生、そしてOBを加えた多彩なメンバーと高橋先生、そして橋本純さんで机を囲んだ。  参加者には、アレギザンダーのパタン・ランゲージと東野高校についての資料が配られていて、あらかじめ勉強をしてからゼミに臨むことになっていた。そして、「論理から建築を見ること」というテーマが、前日に橋本さんから伝えられており、ディスカッションもこのテーマに沿って始まった。 きっかけとして、橋本さんからお題が出る。1.  まず、パタン・ランゲージとは何かを一言で語ってみる。2.  今日見学した東野高校では、それがどの部分に表れていたか。これは難しいと思い、ドキドキする。橋本さんが出されるお題はいつも、見学した建築の本質に触れることで、それを自分なりに定義し発表しなければならないので緊張する。しかし緊張するかわりに、一番おもしろい話が聞けるし、見学した建築について自分なりにのみこんでいくための最適な方法である。 4年生、修士、OBと順に発表していった。わかりやすい、わからない、アレギザンダーのデザインの強さ、計画、自由、記号、シーン、場面、それぞれの建物が違う個性を持つこと、似たような要素を持つこと、不調和、お手本、パッチワーク、表層、脚本、接続詞のない辞書、カタログ、ディズニーランド的、閉鎖性、時間、旅先のシーン、多様、建築のSVOC、日常的、アノニマス、人と人、再現、まちづくり、共有、孤立、・・・・・ 学生から高橋先生まで発表し、様々な話が出てきた。 その後、パタン・ランゲージの生まれた背景について、橋本さんが話してくださった。「近代建築のつくられ方への批判から、パタン・ランゲージの発想は生まれた。それは時代の流れにおいてある意味必然であったと言えよう。アレギザンダーは集落の存在のしかたに強い憧憬を抱いていたのではないかと思う。集落の持つ完結性、完全性、維持のされ方の精度などは、近代都市計画の不完全性(たとえばスラムの発生など)を物語るものとされた。その集落的完全性を科学的につくり出すために、集落の持つパターンを徹底的に洗い出し、理論化したものがパタン・ランゲージである。このような考え方と方法は、ものづくりの方向性としてあり得るものである。しかし、実作に則して見ると理想どおりにできているとは言えない。選び出されたパタン・ランゲージは建築家だけではないさまざまな人々から引き出したデザイン言語であり、それは多様性を認め、集合させ得る考え方だと思われた。しかしアレクザンダーは、東野高校の設計において、強い主観性を発揮させた。つまり、絶対的なコンダクターとなり切り、本来の意味での多様性を認めなかったのである。そのことが当時の日本の建築界では理解されなかったし、今考えても、そこにアレグザンダーの思想の限界も見えていた。だからこそ、理論と実践のあり方を、実物を通して考えてみる上で、この建築はとても示唆的なのである」 ここから、みんなの発表した内容とも合わせて、話が進んだ。あのパタンランゲージで、もっと他にできないのだろうか。東野高校に3年間いるとすれば、好きになっていくだろうか、嫌いになっていくだろうか。自由や新しい発見はあるだろうか。だんだんと、竣工後に場所が成長することや、変化に対してアレギザンダーがどう考えているのかについての話し合いになった。 アレギザンダーは、竣工後も生徒や先生たちの手によって東野高校が成長していくことを期待していたのではないだろうか。パタン・ランゲージの理論としてもそのはずである。しかし東野高校にはアレギザンダーの美学が徹底して表現されている。それは、使う側の生徒が彼の美学を損ねぬよう気を使うほどにである。さらに、生徒も先生たちもアレギザンダーにとっての価値基準、何を変えてはいけないのか、どこなら変えてもいいのかを知らない。それで、彼の美学に塗られた場所に自分が入りこんで育てていくということがなかなかできないでいるのだ。しかし緑は大きく成長し、25年間の時間を表現している。それがいまの様子であろう。 ここまで話が進んだところで、今回のゼミはひとまず終了となった。短い時間であったが、それゆえにみんな集中したし、橋本さんを交えた場でとても密度の高いゼミだった。 理論家として執筆で表現していたアレギザンダーが実作での表現に渡ったとき、彼は何を感じただろう。東野高校につづく実作が2つ、3つとあれば、それを見られたかもしれないと思う。見学と話合いを終えて、パタン・ランゲージについて考える入り口が自分の中にもできたと思う。 Written by Chie Hoshino