Takahashi-Studio

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07.12.18
坂本一成講演会 in ZAIM
JIA神奈川主催

2007年12月18日に横浜情報文化センターにおいて、「コンパクト・ユニット」と「アイランド・プラン」による都市居住と都市環境という表題で坂本一成さんの講演会が開かれた。最初に、住宅作品を初期からひとつひとつたどりながら、坂本さんの建築の考え方が語られた。素材や形に付きまとう意味を消し建築が持つ意味を零度に近付けることに主題をおいていたこと、イメージ調査を行い「家型」という統合形式を強く意識したこと、その「家型」を壊し住宅を自由にしていこうとすること。それは「閉じた箱を開く」過程であり、一貫するのは、制度的な形式に対する批判的なスタンスである。1988,「HOUSE F」では、家型というイコンの閉鎖性から離れ、架構のシステムによって閉じた箱を壊していこうとする姿勢を示された。床があり、必要な部分に覆いがあるだけの住宅を提示しようと考えたという。この時から、都市との関係性が変化し、内側あるいは自分だけでは制御出来ない外的な事象を積極的に巻き込んでいく方向が示される。1999,「HOUSE SA」では、空間の作り方を外的な要因で成立させたいという考えにシフトしていった。敷地の輪郭や土地の傾斜に対応した外周壁、階段状に螺旋を描く床、南向きのソーラーパネルが設置された屋根。ひとつの形式から建築を構成するのではなく、外的要因を建築に含合させることで内在する秩序が相対化される試みがなされている。 2001,「HUT T」でさらなる壁の解放を経て、2005,「QUICO 神宮前」が続く。ショップ・事務所と住宅のコンプレックスであるこの作品は、斜線制限によって欠き取られる建物の輪郭操作から決まった外形と、都市の拡がりを内部まで引きこむ「空所」と名付けた風景・空間によって、内部完結しない都市住居が目指されている。ここから、「コンパクト・ユニット」と「アイランド・プラン」による都市居住と都市環境へと話が展開されていった。都市の中でどのような環境で住みたいか、と自問した坂本さんは、「独立しているが、街と連続したい」と語った。集合住宅の設計ではコモンスペースに力点を置く考え方も一般にある。しかし坂本さんは、住戸一つ一つを直接外と連続させたい、4方向全てが外気と接する戸建住宅のような在り方を集合住宅でも実現させたいと考え、外から直接アクセス出来る長屋形式を立体化させ、それをコンパクトなボリュームにまとめる手法をとる。集合住宅はボリュームコントロールが都市環境を作るうえで重要で、数百個がひとまとまりといった大きなスケールは、都市の中で非常に暴力的な空間操作になってしまう。熱負荷や表面積のデメリットはあっても、小住棟を島状に配置することで、大地の広がりと人間的な密度感を獲得するのが「コンパクト・ユニット」と「アイランド・プラン」という形式だ。上記の思考の軌跡がより具体的に、集合住宅作品をめぐって語られた。1980,「散田の共同住宅」を集合住宅の出発点とし、ひな壇のない住宅地の1990,「コモンシティ星田」、緑道が建物の中を貫く1994,「熊本市営託麻団地」、中庭に外周道路が入り込む     1995,「幕張ベイタウン・パティオス4番地」と、規模の大きな集合住宅の設計が続く。一貫して、コモンスペースを外してプライベートとパブリックを如何に直結させるかが主題とされ、自由に開いた大地と連続する集合住宅が目指されている。2002年のコンペティションで実施案に選ばれた「江古田の集合住宅」は、約1000m2の敷地に4つの分棟を何期かに分けて建てるプロジェクトで、現在は1棟が竣工している。このプロジェクトを機に「コンパクト・ユニット」「アイランド・プラン」という考え方が設計手法として明確になったのではないだろうか。コンペ案は4戸1棟のまとまりで交差メゾネットによる立体長屋とし、4方向に視線を確保した個別のエントリーを持つ構成だったが、実現案は5戸1棟で一部3方向の視線の確保になっている。交差メゾネットは変わらず、一部地面を掘り下げながら高さ制限に対応している。最後は2004年のコンペティション実施案「工作連盟ジートルンク・ヴィーセンフェルト・ミュンヘン」で締めくくられた。ミュンヘンは5層程度の街並が揃った都市である。それに合せ5層程度とした他の案と異なり、坂本案は400戸/4haを2・4・8・12と階数の異なる41棟に振り分け敷地内に散りばめていった。階の変化は、地上の階・緑の階・アルプスの階と高層化していくように設定された。計画を進めるにあたり、コストの問題などから4・8・11という3つの階、25棟に減らしたマスタープランに変更、8組の設計者がそれに沿いながら設計する計画だそうだ-。障害を乗り越え是非実現してほしい。坂本さんは講演中に何度も「形式と現実との葛藤」という言葉を使われた。「形式主義は最も嫌うが形式がなければ建築はできない」。戸建住宅に近づけて集合住宅を考えたときに生まれた積層長屋や、ミュンヘンでの高さの異なる棟の分散配置は、「HOUSE F」での架構と同様に外部との柔軟な関係性構築が可能なシステムであり、現実と葛藤しながら内部の秩序を解放するリアリティを試みる坂本さんならではの手法と感じる。また、坂本さんにとって窓の存在が非常に強いと個人的に思った。大きく開けられた開口、4方向へ視界を確保すること、窓を通して獲得する空所と住人が向き合うこと。自分達を取り巻く状況と向き合い生活していく場としての建築が目指されているのではないだろうか Written by Sakurako Kojima