「奈良少年刑務所改築案」 M2 木下葉月

明治時代に建てられたパノプティコン(放射状配棟)形式の奈良少年刑務所が今春閉鎖され、官民共同での保存活用計画が進む予定である。そこで、刑務所の中心的存在で希少価値の高い収容棟5棟を文化施設にコンバージョンすることを試みた。
放射状に配置された5棟がもつ独特の形式を尊重しながら、「標本(現状そのまま)」「表出(仕上を剥がし煉瓦を露出)」「切断(屋根ごと建物を切る)」「混在(場所と場所を繫ぐ)」「剥離(外壁の一部を剥がす)」という5つの方法をもって改修デザインを施した。




「日常の詩学 -半被災者の小話から生まれる空間-」  M2  芳野航太

昨年4月に発生した熊本地震で故郷が被災地となった。突然断絶された「かけがえのない日常」を意識化し、単なる設計を超えた建築的表現を紡ぐことを試みた、文学的(詩学的)アプローチの作品である。
まず、被災後浮上した建築や風景の記憶にまつわる小話を熊本の知人たちから聞き取りし、小話をもとに独自に11個のかたちを描き出した。祖型的イメージの断片ともいえるかたちを、あたかも机の引出しに眠っていた小物が机上に出されたかのようにひとつのテーブルに集合させ、寡黙で詩的なオブジェクトを形成した。



優秀賞「changing house」  M2 リュウ ジェシー

空間を定義づけるために役割が規定され、意識の外に追いやられてしまう柱や壁、扉など、様々な要素。それらを抽象化し、自律性を与えようとした。
普段体感しているスケールを取り除き、新たに様々なスケールを与え、複雑に配置することで、一つの物に対して二つ以上の意味を与える。

抽象絵画が形や色で芸術家自身の主観的な世界を表現し、現実世界を超えようとするように、建築においても、空間を構成するあらゆる要素のスケールや空間認識を変形させることによって、主観的に空間のイメージを捉えることが可能となるのではないか。「形態は機能に従う」のではなく「人は形態に従う」空間をつくり上げた。



「other Facades」   M2 渡辺育美

エレメント=床、壁、屋根といった建築の構成要素を、単なる部分ではなく自律性を持つものとして捉える建築作品が近年注目を集めている。本制作は、修士研究にてそれらを俯瞰したのち、対象地を町田駅近界隈とし、外部に露出するファサード付属物にエレメントを限定して、まちの印象を形作っているものを意識化するための設計手法論を展開した。変哲もないある建物に周辺建物のエレメント群が無造作にペーストされる過程は、モンタージュ写真機で架空の人物を作り出していく過程に生まれる違和感と共通した感覚を伴い、編集的な方法論の構築記録ともなる。



「面影の在り処 whereabouts of the feature」  B4 飯田湖波

 
もうじき役目を終え産業遺産となる静岡県三島市の中島浄水場(1975年竣工)をコンバージョンし、歴史を学ぶ学習・展示施設を計画・設計した。産業遺産の近づき難さを払拭して日常に還元しつつ、外観を大きく変えながら、太い柱、濾過池の穴、人のスケールから離れた大空間などかつての様子を伝える内部空間で面影を残した。



「気配の空廊 the emptiness of the sign」  B4 石井陽

壁や床など平面の要素によって立体的な空間が浮かび上がって「視覚化」され、完全な形にならなくとも抽象的空間性・領域性・境界性を帯びることを「空廊」という言葉で定義した。様々な現象学的要素や既成概念が「空廊」によって拡がり、日常が日常ではなく見えてくる。この制作は自身の興味を掘り下げていく試行過程そのものでもあった。



奨励賞「コメと生きる agricultural seminar house」  B4 小松崎陸

古くからコメの産地である茨城県志筑、この水田地帯で取れたコメの加工保存と農業研修の施設。蔵や水回りはRC造で閉じ、居室や作業場は木造として開く。外部空間では、イネの乾燥をし、眺望の良い場所で講義を行う。夏は風の通る開かれた場所で、冬は閉じられた場所で人の活動が起きる。コメの加工保存と人の活動を等価に考えた。



「終の景色 scene of the final moment」   B4 佐久間春佳

小高い丘の火葬場と、火葬を待つ時間を過ごす丘のふもとのカフェ。
私たちが最も共有しやすい感情は「人の死」に対する悲しみ・哀しみなのではないか。人の死は衝撃的な非日常をもたらしながら、日常と隣りあっている。私はこの非日常に目をつぶるのではなく風景として見ることで街に受け入れてほしいと思う。



「多摩平の芽 sprout of Tamadaira」   B4 佐々木茜

かつて庭を介して人と人が繋がってきた風景を育んだ多摩平団地。ここに保育園とコミュニティ施設を主な機能とする、子供と子供達を見守る人たちを中心とした場を提案した。樹木の間を巡る二重の輪は、内側の輪が保育園、外側の輪が地域のための機能が備わる柔らかな境界である。木材の架構による表情豊かな空間を目指した。



「集まって住む、2つ目の家 the time sharing second house」B4 佐藤楓

首都圏で生活する人々は移動という行為に対して免疫がつきすぎていると感じる。そこで満員電車に1時間以上乗る人を想定し、都心のセカンドハウスを高架下空間に計画した。私物を格納出来てある程度のコミュニティに限定される。本棚やロッカー棚により場を分けて、利用者が少ない時には広々と使え、空間を自由に選択できるようにした。



 

「イスタンブル日本人学校移転計画 Istanbul Japanese school relocation plan」   B4 皆川貴宏

トルコ、イスタンブルに在住していた時に通った日本人学校の移転計画。民家を改築した現校舎は、大小の部屋が混在する間取りや窮屈さが濃密な人間関係を育てていたが、近場で銃撃事件が発生し移転が決まった。新校舎は、既存建築の外壁保存をしながら地下を増やし内部を再編、現校舎の利点を継承しながら問題点を改善するよう試みた。



「破壊と生成 destruction and generation」 B4 石垣直将

人と町の関係、町と建築の関係を再編集できないかと考え、僕は建築を切断しました。敷地を散策すると一回り小さいスケール感で、町全体でひとつの建物の中にいるような感覚になりました。そこで何戸かにまたがるボイドを空け、補強の鉄骨を挿入しながら建物と建物を繋いで内外の境界を曖昧化することで、町と建築の中間的な存在が出現しました。



「新宿駅徒歩10分 dorm in the town」   B4 久保はるか

単身者向けワンルームとファミリー向け住宅の間に位置するような寮を「寝室の多い家」の集合体として設計した。寝室の前に狭い空間を開けたものを階段状に積み上げると、余白が階段や通路、共用部となる。規模の小さな建物を複数設計し、これらを一筆書きの要領で通路でつなぐ。屋根は敷地に隣合う町のギャップを埋めるように傾斜をかけた。



「跡地に縫合する link remained site of Odakyu line」   B4 小竹聖也

私が幼い頃から利用していた下北沢が再開発によって変革を迎えようとしている。小田急線の地下化によってできる線路跡地も、この地域に今まで無かった大きく開けた場所である。次々と継ぎ足しされ、新旧が混在する成り立ちを生かしたく、線路を撤去した地形をそのまま残しながら縫合するような空間を建築化した。



奨励賞「大地の積層 stacked earth」  B4 小林ひらり

人口減でオフィスの床ストックが増大する予想の中、床面積確保のため基準階を積む現状を疑問に思った。地面から連続的にフラットな場所と勾配のある場所をコントロールしスラブを積層する。勾配のある場所の余白は、空間を緩やかに分け、時には腰掛けたり寄りかかれるものへと変わる。自由な振る舞いを喚起し身体に寄り添う空間を目指した。



「水路の紬 Kanda river Sasazuka branch culvert」   B4 本戸裕梨

神田川笹塚支流は都庁近くの住宅街を南北に通る暗渠で、歩行者専用路となっているが常に薄暗くひっそりとしている。1964年東京オリンピックを機に暗渠化されたこの地を2020年のオリンピック前に再生したいと考えた。舗装材の変更、暗渠に隣接する建物ファサードの変更、パブリック空間の新設という3つの方法で対象地に介入した。